
私も20年以上のサラリーマン生活を経て、海外、国内共に数え切れないほどのプレゼンテーションを行い、また見る機会がありました。
正直に言って、印象に残っている、今でも覚えているプレゼンテーションは1つか2つだけで、それ以外は全く何も覚えていません。
1つ印象に残っているのは出張で4日間の研修をかねて北米のロスに行った時、ディナーの席で外資系企業の重役が一人一人「Unplugged(アンプラグド:オフレコ)」のお題で、それぞれ自身の自己紹介を行ったものです。
その中の一人がPreziを使い、自分の生い立ちから現在までを写真付きでPrezi特有のグルングルン世界を回るプレゼンをしました。今でこそPreziは珍しくないのですが、10年前は私も知らなかったのでとても新鮮で、なんか自分も世界旅行をしたような気分で見ていたのを覚えています。
その他は、世界的に有名なコンサルティング会社のプレゼン、日本のトップ総合商社のプレゼン、私が働いていた資源会社の社長のプレゼン等、いわゆる「トップ・エリート」「見るからに優秀そうな人達」「名だたる大企業」のプレゼンを見る機会があったのですが、正直、なんにも覚えていません(笑)。
こんな凄そうな人達のプレゼンを見ている時も、ほとんどの場合、みなさんが普通に社内や部内のプレゼンを見てる時と同じく、「あー、眠い。早く終らないかな」、「仕事終わったら、今日は何をしようかな」などを考えていました。
なぜ私はディナーの席でのオフレコのプレゼンを今でも覚えていたのでしょう?
私が思うに、人はストーリーがない事を頭に留めておくことができない、また、共感しないものは継続して聴くことができないのだと思います。
私が覚えていたグルングルン廻るプレゼンは、プレゼンターの生い立ちや人柄の話が非常に身近に感じることができ、ディナーの席という事もあり、リラックスした気分でプレゼンを見ていたからかもしれません。
プレゼンテーションとストーリーテリング
目次
ストーリーテリングが如何に人々の物のとらえ方に影響を及ぼすか
実際に調査を行った例ですが、ストーリーテリングの研究でEbayで適当に1ドル未満の物を200個買い、これらにストーリーを付けて再販することで価値に影響が出るのかという実験をおこないました。
ライターを募集し200個の物にそれぞれの商品にストーリーを付けたところ、総額表示で192ドルで買った物が、最終的に8000ドルで売れてしまいました。中には99セントで買った物が62ドルで売れた物もありました。
私は4月からシンガポールでも上映される007、ジェームス・ボンドの「ノータイム・トゥー・ダイ」を楽しみにしているのですが、007の映画の楽しみの一つはクールなアクション。他のハリウッド映画と同じく完全なフィクションで、現実にはあんなスパイはいないのですが、映画を見終わった後、間違いなく多くの人は「カッコいいな」と思うはずです。
映画を観終わった帰り道、ショーウインドにオメガの時計を見つけました。ふらっと店に入り、そこには映画でボンドが付けていたオメガのシーマスターが!値段は50万円。試しに付けてみるとなんだか自分もボンドっぽくなった気がしてきました。
最近、特に大きな買い物もしていないし、担当していた仕事のプロジェクトも無事に最近終わったので自分へのご褒美を踏まえて買ってしまえ!お金を払い早速、シーマスターを腕につけて店を出ました。なんだか自分もボンドに近づいた気がします。
これがまさにストーリー・テリングの力です。ストーリー・テリングは人の物事に対する認識を変えることができるのです。
オーストラリアの番組制作会社EQ Mediaはドキュメンタリーの題材にストーリーを与える事で年間1050億円の売上を上げています。

ストーリーと脳内分泌の関係
ストーリー・テリングによる効果は脳内からのホルモンの分泌と密接な関係があります。
多々あるホルモンの中でもいわゆる「エンジェル・カクテル」とされる、好意、好感をあげる役割を果たすホルモンの組み合わせがあります。
エンジェル・カクテル
バソプレッシン、オキシトシン、セトロニン、ドーパミン、エンドルフィンがエンジェル・カクテルであり、それぞれに役割があります。
例えばエンドルフィンは笑い、好感を刺激し、オキシトシンは信頼、安心感の元になります。
その中でもドーパミンが重要で、ドーパミンが分泌されることで集中力、記憶力、モチベーションが刺激されます。
プレゼンテーションでコミュニケーションを図る際には、観客のドーパミンレベルをあげることができればより効果的にメッセージを記憶に残すことができます。
どうやってドーパミンレベルを上げることができるのか。よく言われるのが3つの方法で、1つはサスペンス(ハラハラさせる)、2つ目は極度の緊張(高いところから落ちそうな時)、そして3つ目がストーリー・テリングです。
デビルズ・カクテル
これらとは逆に、ホルモンの「デビルズ・カクテル」というのも存在します。アドレナリンやコーチソルで、これらが脳内で分泌されると怒りっぽくなる、クリエイテビティが落ちる、物覚えが悪くなる、イライラするなどネガティブな反応のオンパレードとなります。
これらの「デビルズ・カクテル」はどんな時に分泌されるのか?
答えは極度のストレス、嫌なサプライズやドッキリ、退屈なプレゼンや会議などです。これって、職場での環境で全て揃いませんか?
多くのビジネス・シーンでプレゼンテーションは行われていますが、大前提として多くの観客、この場合はサラリーマンが多いとお思いますが、これらの人達は出席前からデビルズ・カクテルの環境にどっぷりと浸かった状態であたなのプレゼンテーションを聞きにきていることになります。
こんな状態の観客に、エンジェル・カクテルのホルモン分泌を促進させるプロセスなしにプレゼンを行ってしまうと、間違いなく何一つ記憶に残らないままみんな帰ってしまうことになります。
まずは自分の物語の準備から
それではどのようにしてエンジェル・カクテルのホルモン、特にドーパミンレベルを効果的に上げ、記憶に残るプレゼンテーションをしていけばいいのでしょうか。
秘密は初めに話した「ストーリー・テリング」です。何から始めればいいのでしょうか。
自分のストーリーを書いて分類化する

どんな些細なことでも構いません。ストーリー・テリングはお笑いや映画と同じで、導入部分での「つかみ」が大事です。この場合それぞれのホルモン分泌をターゲットとしたショート・ストーリを使うのですが、どんな人も人生の中の色々なイベントの中で沢山のストーリーを持っています。
これら小さな出来事をまずはノートに書き留め、用途別に分類していきます。Google Keepなどを使うとタグ付けができるので、じゃんじゃん日常の出来事を一つ一つのノートに書いていき、タグをつけることで自分自身のショートストーリーのデータベースを作り上げて行きます。この話はオキシトシン=共感、この話はエンドルフィン=笑い、興奮、のような感じです。
ゆっくりで構わないので、コツコツと積み上げて行きましょう。些細な、あなた自身の経験、話だからこそ人はより共感できるので、焦らず、のんびりと書いて行きましょう。
自分を信じる
ストーリー・テリングをしようと思っても、「自分の声は通らないし、うまく話せる自信もないし・・・」と尻込みする人は多いと思います。
私が自信を持って言えることは、「人はあなたが思うほどに、あなたのことを気にしていない」、「あなたがあなた自信のストーリーを話す時、人は身近に感じ、共感を覚えやすくなる」です。
あなたがストーリー・テリングで失敗しても、他の人は大して気にもしないでしょう。失敗を気にするのは案外あなただけの場合が多いので、不安の源泉は実はあなたの気分次第の場合がほとんどです。
どんな人も自分のショートストーリーを書き始めると、自分が思っていた数の3から4倍のの話を持っています。まずはとにかく書き始めましょう。
最後に:どのコミュニケーションが一番しっくりくる?
人は今から10万年前に言葉を使い始め、知識をストーリー・テリングで伝えようとしました。
それから7万3千年後の2万7千年前に洞窟などに絵を描く、掘る「洞窟壁画」を作ることで知識を世代を超えて後世に伝えようとしました。
7万1500年後の3500年前についに文字を使い始めました。
そして28年前にマイクロソフトがパワーポイントを発表しました。
人はどの方法でのコミュニケーションに向いているかは一目瞭然ですね。
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