
結論:交渉術とは、相手とお互いにとって最も良い結果を作り出していく、コミュニケーションのプロセス
目次
- 交渉術とは、相手とお互いにとって最も良い結果を作り出していく、コミュニケーションのプロセス。
- 交渉での成功の秘訣はどんな状況でも常に相手に対する「敬意」を持つこと。
- 交渉のゴールはお互いにしっかりとした信頼関係を作り、交渉が必要なくなること。
- 「交渉術」をマスターするための5つのポイントは
- 交渉が失敗してしまう主な理由を知る
- ネゴシエーションとは
- シチュエーション
- プロセス
- スキル
- 正しい交渉術で達成できることは。
- 人を説得したい時、何をすべきかがわかる
- 交渉に必要なプランを立てれる
- 対立してても破綻しないコミュニケーション
交渉のゴールは「交渉がいらない」?
映画やドラマでもよく耳にする「ネゴシエーション」。
直訳では「交渉」ですが、交渉には多くの要素が含まれます。私が外資系企業で年間500億円の売上を担当していた時の交渉の経験をもとに、5つのポイントを解説、なぜ、交渉のゴールは「交渉がいらない事」なのかを説明します。
ここでの交渉は一回きりの関係での交渉(ウソでもなんでもやっていい)ではなく、継続する関係の中での交渉にフォーカスします。
結論

交渉術とは、相手とお互いにとって最も良い結果を作り出していく、コミュニケーションのプロセスです。
交渉ではどんな状況でも常に相手に対する「敬意」を持つこと。
理想の関係ができあがった時、お互いにしっかりとした信頼関係があるので、「何が必要」で「何ができるか」をわかり合っているので交渉がいらなくなります。これが交渉の究極のゴールです。
「交渉術」をマスターするための5つのポイント
- 交渉が失敗してしまう主な理由を知る
- ネゴシエーションとは
- シチュエーション
- プロセス
- スキル
この解説を読むことで達成できることは以下の3点です。
- 人を説得したい時、何をすべきかがわかる
- 交渉に必要なプランを立てれる
- 対立してても破綻しないコミュニケーション
わかりやすくするために、「車の営業マン」と買い手を例に解説していきます。
また、解説では意識してMECE(ミーシー: Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive )というやり方を使っています。要は「漏れなく・かぶりなく」カバーしていきます。
コンサルティング分野で世界中で使われているロジカル・シンキング(理論的思考)の方法で、交渉のプランニングをするのに非常に有効です。MECEについて詳しくは別の記事で説明していきます。(https://www.sbbit.jp/article/cont1/34833)
1. 交渉が失敗してしまう理由

私自身の経験や部下の交渉を長年見てきましたが、何人であろうが、どこの国であろうが、失敗の原因はこの2つです。
特に2つ目の「小手先の交渉術」はよく紹介されるテクニックとそれらが如何に使えないかを解説していきます。
準備不足
交渉の失敗の8割は単純に準備不足です。
- ニーズを把握していない
- 条件と目的がうまく伝えれていない
- 相性が合わない担当を使っている
などが例です。交渉で必要なスキルや準備項目は後の項目で解説していきます。
喋りに自信がる人がよく犯すミスです。交渉は「設計」が大事です。
間違った準備:小手先の交渉術

失敗の残りの2割はいわゆる「交渉のテクニック」の誤解です。「人を動かす〜」、「すぐに使える〜」、「心理学の基づいた〜」など色々ありますが、余程交渉相手がバカでない限り、小手先であれこれしてもすぐにバレます。
その中でも高い確率ですぐにバレてしまい、逆効果になるテクニックの一覧は以下の通り。
1. いい警官・悪い警官
余程入念に準備しないと、とにかくバレバレ。しかも、最終的に交渉がいい結果に終わる確率よりも、悪い警官の印象を引きずるリスクが高い。
2. 誤前提暗示(ゴゼンテイアンジ)
要は二者択一自分の企画を実現させるために、二者択一から選択させるというテクニック。
3つ以上の選択肢の中から誘導する方法はあるけど上級者向け。二者択一だと追い込もうとしているのがすぐに分かり、相手の警戒心を上げてしまう。
3. イーブン・ア・ペニー・テクニック
「1分ほどお時間いただけませんか?」など、低い要求で交渉に入り込むテクニック。
単純に「ウソ」や「だます」意図なので、交渉術のゴールである「信頼関係」を築く事ができない。
なぜこのテクニックが交渉術として多くの人が紹介しているのかわからない。
あなたは道で「1分ほどお時間いただけませんか?」と話しかけてくる人を長期的に信用できますか?
4. 限定プレッシャー
ある解説では「「今だけ」など時間や場所を限定することで交渉を進めるうえで非常に効果的」と書いてある。
この限定が本当であれば、交渉のフレームとして相手の合意を得て交渉するのはいいが、プレッシャーを与える為だけであればウソになるのでダメ。
5. ドア・イン・ザ・フェイス
本来自分が希望している水準よりも、大幅に低い(高い)水準から話を切り出すテクニック。
単なるホラ吹きで信頼関係を築けない。
本命の提案は目標値からストライクゾーン内に放り込むのが鉄則。
ストライクゾーンを探す場合は「一般論として〜はどうでしょうか」、「例えばアイデアとして〜」、「突飛な案かもしれませんが」という形で聞き出すのが正解。
6. 交渉を長引かせてサンクスコストを意識させてクロージングを迫る
これも本当に長引いてしまう場合は◯、意図的に遅らせるのは☓。
一回限りの関係であればいいが、そうでなければバレた時に信頼を失う。
7. プレイング・ダム (Playing Dumb)
相手の提案に対して批判的な分析をして、問題点を指摘する一方、自分では提案をせずに相手を崩す方法らしい。
単純に嫌な奴になるだけで、こんな人とは信頼関係は結べない。
2. 交渉とは
失敗の原因の後は、まず、「交渉とはなにか」をハッキリさせていきます。
- 定義
- 交渉できるもの
- 交渉できないもの
交渉できるもの

- 合意がすぐにできない
- 利益相反がある場合:
- 車の営業マンはできるだけ高く売りたい⇔ 顧客はできるだけ安く買いたい
- 他の選択肢との比較がしたい場合:
- 競合他社:トヨタ車⇔日産、ホンダ・・・
- 他のサービス:カーシェアリング、タクシー
- 案件以外の目的がある場合
- 顧客は車を買うのと引き換えに、自分の売ってる自動車保険の販売を車の営業マンにサポートしてほしい
- 利益相反がある場合:
- 合意ができる
- 目標が複雑: 特殊な仕様(ピンク色、特注のホイール)
- 目標が複数: 会社での營業車一括で買う
交渉できないもの

- 合意が直ぐにできる
- お互いのニーズや状況をわかり合っているので、交渉する必要がない、信頼し合った関係です。=最初のタイトルにある、交渉のゴールの関係と言えます。
- 車の営業マンと顧客の関係が非常に親密で、お互いのニーズをよくわかっている
- WIN-WINの答えが容易にお互いわかる場合
- 合意点があきらかに1つしかない場合:顧客が特定の車を定価でもいいので買いたい場合
- 合意ができない
- お互いの方向性がまったく違い、かみ合わない状態です。この状況で交渉しようとする人を結構ビジネスでも見かけます。
- ニーズあり、手段なし:車はほしいけど、お金がない
- ニーズなし:車を持たない主義、免許がない
まとめ
まずは、あなたが交渉しようとしていることは、「交渉できることなのか」確かめてください。できる場合、どのカテゴリーの交渉なのかを知ることが大事です。
3. シチュエーション

「交渉」と聞いた時、イメージとしてビジネスでの商談交渉が刑事ドラマでの人質交渉が思いつくかもしれませんが、日常生活でもいろいろなケースがあります。ここでは「プライベート」と「仕事」のカテゴリーで分けてみます。
ここはさらっと、「こういうシチュエーションもある」という程度で流してもらっていいです。
- プライベート
- 子供の場合は親から外に遊びに行くOKをもらう時
- 親が子供に対して約束していたお出かけができなくなった時に代りの案で納得させる時
- 旦那さんが週末ゴルフに行く際に奥さんから許可をもらう時
- 仕事
- 社内
- 車の営業マンが上司にディスカウントの権限を増やしてもらう
- 部下が会社を辞めたがっているのを説得する
- 社外
- 顧客への車のセールス
- 会社の机やイスの備品を買う
- 社内
4. プロセス

私が使っている交渉のプロセスは4つあります。ビジネスではよく聞く「PDCAサイクル(Plan: 計画、Do:実行、Check:確認、 Adjust:調整)と非常に似ています。違いは評価基準をクリアにする点を取り入れています。
- 目標設定
- 評価基準
- アクション
- レビュー
目標設定

ここはネゴシエーションのプロセスで一番大事なところです!
「何を達成したいのか」をもとに、ベストの結果、最悪の結果を決めて、落とし所のレンジを設定します。車の營業マンですと、
ベストの結果 :高級車をフルオプションで10台売る!
OKレンジ :高級車3台から5台と小型車5台から7台売る。
ワーストの結果 :ぜんぜん車が売れない
などです。3つにまとめると、
- 成功地点を理解
- 合意ラインを明確化する
- リスク許容量(後で「BATNA」を説明します)
この3点を他のことをする前に決めておかないと、後々の交渉のプランが正しく機能しなくなります。
また、交渉の「目標」は全体戦略の中での小さいパーツを進めるためのプロセス、方法であり、「ストラテジー(戦略)」より小さいものになります。
トヨタであればトヨタ社の世界戦略とディーラーでの販売です。
もう1つ忘れては行けないのがタイムライン。
目標をどれくらいの期間で達成するのか、そのためどのくらいの交渉のペースを決めます。アクションの後のレビューを入れるタイミングにも使います。
ちなみに目標設定など交渉のプランニングでグロービスのクリティカルシンキングは非常に役に立ちます。いろいろな交渉関係の本に行く前に、クリティカルシンキングは基礎になるのでおすすめです。
(ほり下げ話1:戦略と戦術)
会社の方針が「5年での10%の利益改善」=「戦略」目標です。
営業部では「値上げは今のマーケットでは客先からの反発もつよいだろうから、多少のディスカウントは覚悟の上で10%のシェアアップを目標としよう。」とします。
交渉の作戦は「10%のシェアアップ」=「戦術」目標
結果は:
- シェア獲得のための値下げが必要=戦術
- 他社が値下げに反応し、マーケットの値段が下落
- ディスカウント額を増やしてシェアは10%増
- 平均の値段が下がったことにより利益は同水準
この場合、交渉の「戦術」目標である「10%シェアアップ」は達成しましたが、全体での「戦略」目標である「利益の10%改善」とは違うベクトルとなってしまっています。
「戦略」と「戦術」のズレは、特に個人のパフォーマンス評価で短期での結果を求められやすい外資系企業では常時「あるある」Top3の一つです。
(ほり下げ話2:BATNAって何?)
BATNAとはBest Alternative to Negotiated Agreementの略で、「最も望ましい代替案」の意味です。通常、交渉の限界値となります。
例えば、自分の持っている車をヤフオクで売ろうとします。近所の中古車屋さんに持っていったところ、100万円で買い取ってくれるのがわかりました。
この場合、ヤフオクでは100万円以上から始められ、近所の中古車屋さんに売ることが「BATNA」の一つとなります。
評価基準

交渉の目標が決まれば、次は「何をもってして成功とするのか」の基準を決めます。カテゴリーは2つです。どちらか1つでもいいですし、組み合わせでもかまいません。
- 量的:車の販売台数、売上、利益
- 質的:満足度、ブランド、評判
評価基準をもとに、次におこす「アクション」と「目標」を比べてネゴシエーションが「成功」「失敗」のどちらの方向に向かっているのかを判断します。
この基準が間違っていると、後のレビューのプロセスで「失敗」自体に気づかずに間違った対策を取ってしまうことになりかねません。
アクション

ついに作戦実行です。交渉はシチュエーションのところで述べたとおり、いろいろなケースがあります。ここでは「仕事」のカテゴリーで車の営業マンを例に見ていきます。
- 内部
- ディーラーの受付での接客のサポート
- 技術的な質問があった時にエンジニアの人と仲良くなる
- 顧客からの厳しいディスカウントのお願いが来た時のために、上司に根回しをしておく
- 外部
- 訪問販売での交渉
- オンラインでの交渉
レビュー

最後はアクションをおこしてからのフィードバックを、目標と照らし合せてアライメントを取っていきます。
ネゴシエーションには自分のコントロールが効かない要因や、常に変化している環境要因もあるので、コツとしてはあまり細かいズレは気にせず、大まかなラインでの方向があっていれば、そのまま継続していきましょう。
スキル

交渉で必要なスキルは5つにまとめます。
- リスニング
- 認識と共感
- 「相手への」理解を表現する
- 自分の要求を相手にクリアにする
- シチュエーションの客観視
リスニング
「話し上手は聞き上手」とことわざにもある通り、ネゴシエーションがうまい人は例外なく聞き上手です。リスニングの重要性は2点です。車の営業マンを例に使っています。
ニーズを隠したがる人には「一般論では」「例えば仮に〜」というフレーズで相手のニーズを絞っていくのはとても有効です。
- 情報の収集
- どんな車がトレンドか
- 顧客からの車を買い替えそうな人の口コミ情報
- 競合ディーラーのプロモーション状況
- ニーズの発見
- 買い替えニーズ
- 整備、車検ニーズ
- 不満点や改善点=レビュープロセスに使う
相手と相手の発言に対する認識と共感
交渉では「聞き上手」は必須ですが、「聞いている事」を相手に意識して伝えることで、コミュニケーションに「共感性」を与える事が重要です。
コミュニケーションに共感性が生まれると、会話の方向性のコントロールを増やすことができます。共感性を生む典型的な2つの方法は、
- Rephrasing (言い換え)
- Repeating (繰り返し)
です。「ミラーリング」、「マッチング」と言われる交渉のテクニックです。
ポジティブ・フレーミング:「相手への理解」を表現する
共感性と似ていますが、相手の言い分に理解を文字通り「発言して示す」事が大事。相手がすんなりと聞き入れることができるタイミング(ちゃんとリスニング、言い換え、繰り返しを行った後)で、自分が消化した「相手の考えに対する理解」を伝えます。
相手への理解を表現する結果として、「今行なっている交渉が解決に向けて前進していますよ」とお互い認識し、交渉の逆戻りを防ぐ役割もあります。
- 自分の要求を相手にクリアにする
クリアにする際に2つの点から話します。
- 【理論】自分がなぜ目標を達成したいのか
- 【感情】目標に対するパッション
私の経験からすると、特に日本人の場合、相手への気遣いからか「自分の要求」をハッキリと相手に伝えていないケースをよく目にします。欧米人なんかは明確に、インド人はえてして大げさにしてまで「自分は何がほしいのか」を伝えてきます。
もちろんケースバイケースでやり方は直球で伝えるものから、遠回しに言うのもアリですが、設定した交渉のタイムラインの中盤までには必ず、ハッキリと目標を伝えなければいけません。
中盤以降までずるずると遠回しにしていると、相手のカウンター・オファーを自分の妥協できる範囲内にとどめておく「くさび」を打ち込むことができなくなります。要注意です。結果的に交渉が合意できるレンジの下の方に行ってしまうリスクが増えることになります。
シチュエーションの客観視
最後は「シチュエーションの客観視」ができるスキルです。
交渉は探り合い、友好、険悪、敵意など場の緊張度がいろいろ変化します。
特に最悪のケースを目の前に出された時など、「やばい!このままでは取り返しのつかないことになるかも」など間違いなく恐怖心が頭をよぎります。
心理学でも実証されているのですが、人は恐怖心を持つとロジカルな考えを脳がシャットダウンし、防衛本能で「直感」ベースでの思考回路に勝手に切り替わってしまいます。
逆に交渉が好調に進み、目標よりも上手くいきそうな時、うき足立ってしまうことで相手に悟ら、ディールを台無しにすることもあります。
パッション(情熱)をもって交渉に挑むことは、相手からの信頼を得るために絶対に必要ですが、同時に100%パッションで突っ走ると状況の客観視ができなくなり、また相手にも感情的に押しまくっているだけに映ります。
熱くなりすぎず、必ず10%はクールな自分を保ちましょう。交渉のスケジュールにブレイクをはさむ、自分側の同席者に熱くなりすぎた際にシグナルを送ってもらう等もスキルを補う作戦です。
まとめ

- 交渉術とは、相手とお互いにとって最も良い結果を作り出していく、コミュニケーションのプロセスです。
- 交渉ではどんな状況でも常に相手に対する「敬意」を持つこと。
- 交渉のゴールはお互いにしっかりとした信頼関係を作り、交渉が必要なくなること。
- 「交渉術」をマスターするための5つのポイントは
- 交渉が失敗してしまう主な理由を知る
- ネゴシエーションとは
- シチュエーション
- プロセス
- スキル
- 正しい交渉術で達成できることは。
- 人を説得したい時、何をすべきかがわかる
- 交渉に必要なプランを立てれる
- 対立してても破綻しないコミュニケーション
交渉術は私が外資勤務の時に、かなり徹底的にトレーニングをうけ、実践してきました。失敗もたくさんしましたが、日常生活でも使える理論やテクニックはたくさんあり、とても有益なスキルです。
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